母の認知症が少しずつ進行していることに気づき始めたのは、2年ほど前のことでした。最初は「年齢のせいかな」と思っていた物忘れが、次第に日常生活に支障をきたすようになりました。同じ話を何度も繰り返したり、冷蔵庫なかが空っぽだったり、同じ食材を何個も買い込んでしまったり。そして、ついにはダウンベストがストーブの火で焦げてしまうという危ない出来事もあり、「このまま一人暮らしを続けさせるのは難しい」かも知れないと思い始めました。
そこで浮上したのが、グループホームへの入居という選択肢です。認知症の方が専門スタッフのサポートを受けながら、少人数で家庭的な生活を送れる環境は理想的に思えました。でも、正直なところ一番気になったのは費用のことです。「月々いくらかかるのだろう」「入居時にまとまったお金が必要なのだろうか」「母の年金だけで賄えるのだろうか」――そんな不安が次々と頭をよぎりました。介護施設の費用は施設によって大きく異なるという話も聞いていたので、何から調べればいいのかも分からず、途方に暮れたのを覚えています。
同じような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。今回は、グループホームにかかる費用について、できるだけ具体的にご説明していきたいと思います。
グループホームとは
費用の話に入る前に、まずグループホームがどんな施設なのかを簡単に確認しておきましょう。
グループホーム(正式名称:認知症対応型共同生活介護)は、認知症の診断を受けた高齢者が、5〜9人という少人数のユニットで共同生活を送る介護施設です。地域密着型サービスの一つで、住み慣れた地域で暮らし続けられることを目的としています。
入居できるのは、原則として65歳以上で要支援2または要介護1以上の認定を受けた認知症の方です。また、施設と同じ市区町村に住民票があることも条件となります。
施設では、認知症ケアの専門知識を持ったスタッフが24時間体制でサポートしてくれます。入浴や食事、排せつなどの介助はもちろん、料理や洗濯、掃除といった家事を入居者の皆さんで分担することで、自立した生活を維持し、認知症の進行を緩やかにすることを目指しています。
入居時にかかる初期費用
グループホームに入居する際、まず必要になるのが初期費用です。この費用は大きく分けて「入居一時金」と「保証金(敷金)」の2つがあります。
入居一時金
入居一時金は、施設を利用する権利を得るために支払う費用です。運営主体が民間企業か社会福祉法人かによって、金額に大きな差があります。
一般的な相場:
- 社会福祉法人が運営する施設:0円〜20万円程度
- 民間企業が運営する施設:10万円〜数百万円
施設によっては入居一時金が不要なところもあれば、100万円を超えるケースもあります。特に都市部の施設では高額になる傾向があります。
入居一時金には「償却期間」が設定されている場合が多く、たとえば償却期間が5年の施設で3年後に退去した場合、未償却の2年分が返還されることがあります。ただし、修繕費や清掃費が差し引かれるため、全額が戻ってくるわけではありません。
保証金(敷金)
保証金は、賃貸住宅の敷金のような性質を持つ費用です。家賃の滞納や退去時の原状回復費用に充てられ、残金は退去時に返還されます。
一般的な相場:
- 10万円〜30万円程度
保証金は家賃の2〜3ヶ月分に設定されている施設が多いようです。
初期費用の具体例
【A施設の場合】(地方都市・社会福祉法人運営)
- 入居一時金:0円
- 保証金:15万円
- 合計:15万円
【B施設の場合】(都市部・民間企業運営)
- 入居一時金:50万円(償却期間5年)
- 保証金:20万円
- 合計:70万円
このように、施設や地域によって初期費用には大きな開きがあります。入居を検討する際は、初期費用の総額だけでなく、返還される条件についてもしっかり確認しておくことが大切です。
月々にかかる費用の内訳
グループホームの月額費用は、大きく3つの項目に分けられます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1. 日常生活費
日常生活費は、介護保険の適用外で全額自己負担となる費用です。以下のような項目が含まれます。
家賃(居住費) 施設の立地や部屋の広さによって大きく変わります。
- 地方都市:3万円〜5万円程度
- 都市部:5万円〜8万円程度
- 東京・大阪などの大都市圏:8万円〜15万円程度
食費 1日3食の食事代です。
- 相場:4万円〜6万円程度(月額)
光熱費 電気、ガス、水道代などです。
- 相場:1万円〜2万円程度(月額)
管理費・共益費 施設の維持管理にかかる費用です。
- 相場:1万円〜3万円程度(月額)
日用品費・雑費 ティッシュやトイレットペーパー、洗剤などの消耗品代です。
- 相場:5,000円〜1万円程度(月額)
これらを合計すると、日常生活費だけで月額10万円〜15万円程度が目安となります。
2. 介護サービス費
介護保険が適用される費用で、要介護度と施設のユニット数によって金額が決まります。自己負担は原則1割ですが、所得に応じて2割または3割負担となる場合もあります。
2ユニット以上の施設の場合(1割負担・30日の月)
| 要介護度 | 月額自己負担額 |
|---|---|
| 要支援2 | 約22,500円 |
| 要介護1 | 約22,800円 |
| 要介護2 | 約23,880円 |
| 要介護3 | 約24,660円 |
| 要介護4 | 約25,200円 |
| 要介護5 | 約25,740円 |
1ユニットのみの小規模施設の場合は、これより若干高くなります。
3. サービス加算
施設が提供する専門的なサービスや手厚いケアに対して加算される費用です。施設によって内容は異なりますが、主なものとして以下があります。
夜間支援体制加算
- 夜間の巡回や緊急時対応を行うサービス
- 1ユニット施設:1日50円(月額約1,500円)
- 2ユニット施設:1日25円(月額約750円)
医療連携体制加算
- 看護師が常勤し、医療ケアが充実している施設
- 1日39〜59円(月額約1,200円〜1,800円)
看取り介護加算
- 終末期ケアを行う施設
- 死亡日:1,280円
- 死亡前日・前々日:1日680円
- 死亡以前4〜30日:1日144円
個別機能訓練加算
- リハビリなどの機能訓練を個別に提供
- 月額約1,200円
これらの加算は、施設のサービスの質を示す指標にもなります。加算が多いほど手厚いケアが受けられる反面、費用も高くなるため、必要なサービスを見極めることが大切です。
月額費用の具体例
実際にどのくらいの費用がかかるのか、具体的なケースで見ていきましょう。
【ケース1】要介護2・地方都市のC施設
日常生活費
- 家賃:4万円
- 食費:4.5万円
- 光熱費:1.2万円
- 管理費:2万円
- 日用品費:0.8万円
- 小計:12.5万円
介護サービス費(1割負担)
- 要介護2:23,880円
サービス加算
- 夜間支援体制加算:750円
- 医療連携体制加算:1,500円
- 小計:2,250円
月額合計:約15万円
【ケース2】要介護3・都市部のD施設
日常生活費
- 家賃:7万円
- 食費:5万円
- 光熱費:1.5万円
- 管理費:2.5万円
- 日用品費:1万円
- 小計:17万円
介護サービス費(1割負担)
- 要介護3:24,660円
サービス加算
- 夜間支援体制加算:1,500円
- 医療連携体制加算:1,800円
- 個別機能訓練加算:1,200円
- 小計:4,500円
月額合計:約21.5万円
【ケース3】要介護4・大都市圏のE施設
日常生活費
- 家賃:12万円
- 食費:5.5万円
- 光熱費:2万円
- 管理費:3万円
- 日用品費:1.2万円
- 小計:23.7万円
介護サービス費(1割負担)
- 要介護4:25,200円
サービス加算
- 夜間支援体制加算:1,500円
- 医療連携体制加算:1,800円
- 個別機能訓練加算:1,200円
- 看取り介護体制加算:1,000円
- 小計:5,500円
月額合計:約29.4万円
このように、立地や要介護度、施設のサービス内容によって、月額費用は15万円〜30万円程度と大きく幅があることが分かります。
費用を抑えるための制度
グループホームの費用負担が大きいと感じる方のために、いくつかの減額制度が用意されています。
高額介護サービス費制度
1ヶ月の介護保険サービスの自己負担額が、所得に応じた上限額を超えた場合、超過分が払い戻される制度です。
負担上限額(月額)
- 生活保護受給者:15,000円
- 市町村民税非課税世帯:24,600円
- 一般世帯:44,400円
- 現役並み所得者:44,400円(世帯合計)
ただし、この制度で対象となるのは介護保険サービス費のみで、家賃や食費などの日常生活費は含まれません。
特定入所者介護サービス費(補足給付)
低所得世帯や生活保護受給世帯の方を対象に、居住費と食費の一部が軽減される制度です。
家賃助成制度
自治体によっては、低所得世帯を対象に家賃の一部を助成する制度があります。上限は月額1万円程度で、居住費から直接差し引かれる形が一般的です。
社会福祉法人等による利用者負担軽減制度
社会福祉法人が運営する施設では、低所得世帯の利用者負担を軽減する独自の制度を設けている場合があります。
これらの制度を活用することで、月々の負担を数万円単位で減らせる可能性があります。利用できる制度がないか、お住まいの市区町村の介護保険課や地域包括支援センターに相談してみることをおすすめします。
施設選びのポイント
費用面でグループホームを選ぶ際のポイントをいくつかご紹介します。
料金体系の透明性を確認する
見学時には、費用の内訳を詳しく説明してもらいましょう。追加費用が発生するケースについても、あらかじめ確認しておくと安心です。曖昧な説明しかしてもらえない施設は、後々トラブルになる可能性があるため注意が必要です。
トータルコストで比較する
月額費用だけでなく、初期費用や償却期間、退去時の返還条件なども含めて、長期的な視点で比較することが大切です。「月額は安いけれど初期費用が高い」「初期費用は安いけれど月額が高い」など、施設によって特徴があります。
費用とサービス内容のバランスを見る
高い費用を払えば必ずしも良いサービスが受けられるとは限りません。逆に、費用が安くても質の高いケアを提供している施設もあります。実際に見学して、スタッフの対応や入居者の様子、施設の雰囲気を確認することが何より重要です。
余裕を持った資金計画を立てる
月額費用以外にも、医療費やレクリエーション費用、衣類の購入費など、予期せぬ出費が発生することがあります。余裕を持った資金計画を立てておくと、後々慌てずに済みます。
まとめ
グループホームの費用について、できるだけ詳しくご説明してきました。最後にポイントをまとめておきます。
- 初期費用:0円〜数百万円(施設によって大きく異なる)
- 月額費用:15万円〜30万円程度が相場
- 費用の内訳:日常生活費、介護サービス費、サービス加算の3つ
- 地域差:都市部ほど家賃が高く、全体の費用も高額になる傾向
- 減額制度:所得や世帯状況によって利用できる制度がある
私自身、最初は費用の高さに驚きましたが、実際に複数の施設を見学して詳しく話を聞くうちに、費用の内訳や施設ごとの違いが少しずつ理解できるようになりました。そして何より、母にとって安心して暮らせる場所を見つけることが一番大切だと気づきました。
費用は確かに重要な判断材料ですが、それだけで決めるのではなく、ご本人が穏やかに暮らせる環境かどうか、スタッフの皆さんが温かく接してくれるか、そういった「目に見えない価値」にもぜひ注目してください。
グループホーム選びは、ご家族にとって大きな決断です。この記事が、皆さまの施設選びの一助となれば幸いです。分からないことがあれば、施設の方や地域包括支援センターに相談してみてはいかがでしょうか?きっと、ご家族にぴったりの場所が見つかると思います。



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